熊谷達也「邂逅の森」
熊谷達也「邂逅の森」を読んだ。
非常に重厚で、読み応えのある1冊だった。直木賞、山本周五郎賞をダブル受賞した作品なので読んだことのある人も多いかもしれない。
先日の記事でも書いたが、ワタクシは「今、話題だから読む」「賞を取ったから読んでみよう」といった考えは全くない人間だ。
自分で「面白そう」と思った本を読む、といったスタイルなので、今さらながら「こんな面白い本があったのか!」と思うことも多い。
今回とりあげる熊谷達也作品もそのパターンである。
素晴らしい1冊
「MARC」データベースより紹介文を引用しよう。
大正年間、身分違いの恋から故郷を追われたマタギの青年、松橋富治の波乱の人生を描く。奔放に生きてきた富治を巨大熊に向かわせたものは何か。自然に対する畏敬の念あふれる雄大な物語。
この作品に出てくる世界―マタギの世界、鉱山の世界、自然の世界は、そのどれもが泥臭い。かっこよくも美しくもないどころか、健全でもない。
だが、これこそが「生きる」ということなのだと、この本は感じさせてくれる。
当然、大衆向けにマイルドにされている部分はあるだろうが、それにしてもよくぞここまでと思わされる1冊だ。
わかりやすい
読んでいて驚いたのは、その「わかりやすさ」。登場人物たちの話す言葉は思いっきり方言だし、専門用語もバンバンでてくる。狩りの陣形など、日常生活ではなかなかお目にかかれないものもでてくる。
だが、そのすべてが非常にわかりやすく書かれている。文体も軽すぎず重すぎずと、ち絶妙の塩梅だ。
考えさせられる
読んだ後は、いろいろと考えさせられると思う。このところ、日本の小説でハズレを多くつかんでいたこともあるが、久々に考えさせられる小説に出会った気がする。
「小説は娯楽」と変に割り切ったような作品ばかりだなあ・・・と失望していたところだったからなあ。救われたような気分である。