熊谷達也「漂白の牙」
熊谷達也「漂白の牙」を読んだ。
第19回新田次郎文学賞を受賞した作品だ。
漂白の牙
さっそく「BOOK」データベースより紹介文を引用してみよう
雪深い東北の山奥で、主婦が野犬とおぼしき野獣に喰い殺されるという凄惨な事件が起きた。現場付近では、絶滅したはずのオオカミを目撃したという噂が流れる。果たして「犯人」は生きのびたニホンオオカミなのか?やがて、次々と血に飢えた謎の獣による犠牲者が…。愛妻を殺された動物学者・城島の必死の追跡が始まる。
物語としては「自然と人間」というテーマを軸に、ミステリ的な要素を絡めたつくりになっている。
面白いは面白いが・・・
先に言っておこう。この作品は面白い。
だが、熊谷達也氏の作品として考えると「物足りなさ」を感じるのが正直なところだ。
先に「邂逅の森」「相剋の森」を読んだということもあるだろう、初期の作品ということもあって「漂白の牙」はずいぶんと「?」と感じる部分があった。
もっとも大きな点は、ミステリ要素を絡めているところだろう。
それが2時間ドラマの刑事モノのようなノリで、自然をテーマにした部分とどうにも噛み合っていない。
女性の描写
「相剋の森」の記事でも書いたが、この作者は女性の描写が苦手なのかもしれない。
あまりこういう表現は使いたくないが、読んでいるとどうしても「この女、頭がおかしいんじゃないか?」と感じてしまう。
思考回路がどうなっているのかさっぱり分からない。
「絶対にあけないように」と頼まれた封筒を勝手に開け、その内容にまったく筋違いのキレ方をして、それを封を開けたままで相手に投げつける。その封筒の中身は「殺された奥さん」に関係する資料という・・・人としておかしいだろ、お前・・・というキャラクターである。
「相剋の森」でもそうだったが、なぜ女性キャラになると、そろいもそろって頭がおかしくなるのか・・・。その上、自己主張が激しいときているから、全く困ったものである。
面白い作品であるだけに、その点が非常に残念だ。