吉村昭「羆嵐(くまあらし)」の衝撃
今回は「羆嵐」を紹介しよう。とにかく衝撃の1冊だ。
羆嵐は「くまあらし」と読む。故・吉村昭先生の作品で、日本獣害史上最大の惨事「三毛別羆事件」をモデルにしたものだ。凄まじすぎる内容で、あまりの衝撃にページをめくる手が震えるほどの1冊だ。
羆嵐(くまあらし)
スタイルとしては、小説の形を借りたノンフィクションといっていいだろう。冬眠の時期を逃したヒグマが、民家に住む人たちを殺害するところからはじまる。
クマについての常識がことごとく覆されるのが本当に恐ろしい。
特に衝撃だったのは、最大の防御策と思われていた「火」を羆が恐れなかったという点である。それどころか、火を目印にして人のいるところを発見しているようでもある。
また、死んだふりも効かず、さらには○○の味を覚えると○○ばかりを狙ってくるという描写もある(それ以外の人間は食べられないものの、殺される)。
人間は何をしても羆にはかなわないのか
これほどまでに羆の恐ろしさを伝える作品は、なかなかないのではないだろうかと思う。
吉村昭先生の文体は、派手に盛り上げるとか、煽るとかいったスタイルではない。だが、それが非常にいいのだ。感じるのは読者だ。
衝撃だらけだが、こうしたことを知るということも大きなことだと思う。ぜひ読んでほしい1冊だ。
追記
先日、「タイムリーな話題に乗っかれ」とばかりに、実際に起こった事件を安直にモチーフにしたミステリはいかがなものかと書いたが、今回書いた作品はそれとは性質が違うことを書いておこう。この件についてはまた日をあらためて書いてみようと思う。