黒川博行「蒼煌(そうこう)」を読んだ
黒川博行「蒼煌(そうこう)」を読んだ。これは面白いですなあ!
この作品のテーマは「日本の美術界」。ある日本画家が、芸術院会員を目指す過程を描いた作品だが、こりゃあ、ドス黒い世界ですなあ、本当に闇だな、こりゃあ!
うすうす感じてはいたが
この小説はフィクションという体で書かれているが、「これって現実では・・・」と思わされる部分が大変に多い。
美術や芸術というと「なぜこの作家が」「なぜこの作品が(評価されてんの?)」と思うことがあるだろう。
そういった、うすうす感じていたことへの答えがこの本には存分に書かれている。
現実にあてはめて読む
この本の登場人物は、実在の人がモチーフではないかといわれている。人物だけでなく、作中に出てくる組織や大学などモチーフがあるらしい。
この方面に詳しい人は、そういったたのしみ方もできる1冊だ。
ワタクシはそっち方面にはちっとも詳しくはないが、「入選」「特選」とかの話は非常に面白かった。とりあえずドス黒い、実にろくでもないとだけいっておこう。
黒川博行氏
著者は黒川博行氏はもともと芸大出身で、高校で美術を教えていたそうだ。それもあって、細かいディティールが実に面白い。
美術をテーマにした本は、これ以外にもいくつかあって、どれもたまらない魅力がある。
小説としても大変面白いので、美術の知識なしでも十分にたのしめる。
塩田武士「罪の声」 その3
塩田武士「罪の声」話その3である。
「売りたい本」大賞
ワタクシは「本屋大賞」を参考に本を選んだことはないが、ずいぶんと面白みのないものになってしまったなあと思うことがある。
まあ、俗に言う「権威付け」の一種であるのだが、それでも初期の頃はまだ「掘り出しもの的な感覚」があったように思う。
「この賞ならでは」という(気にさせる)ラインナップをみせてくれたような記憶がある。
今、この事件を取り上げる意味
今回、ワタクシはこの本に関して、厳しいことばかり書いている。期待はしていたのだ、だが、どう考えてもわからないことがある。
「今、この事件を取り上げるのに、この程度の内容(推理)でいいのか?」ということである。
グリコ森永事件といえば、昭和の未解決事件である。今までにさんざん議論されて、各方面で様々な検証がされてきた事件である。
事件発生当初ならまだしも、今この時代にこの事件を取り上げるのであれば、そのハードルは無視してはならないとワタクシは思うのだ。
覚悟
ワタクシは、氏のファンの方には申し訳ないが、正直、「この程度の覚悟で書くのなら、グリコ森永事件をネタにしないでほしかった」と思った。
同時に、「グリコ森永事件をテーマにした意味はなんだったのだろう」とも思った。
塩田武士「罪の声」 その2
昨日の記事、塩田武士「罪の声」話のつづきである。
行動の動機が薄い
この作品、人物が「なぜその行動をするのか」がよくわからない。
指示されたり、思い立ったりして、動くのだが「なぜなのか」の描写がほとんどないのである。
たとえば、事件に関連がありそうな人物にあたって、話をする場面がある。
で、最初の会話で軽く否定されただけで、「完全な空振りに終わった」とがっくりするのだが、いやいや、そこで終わるなよ!という話である。
「でも、怪しい」とか「その話を信じる理由」とかも一切ない。しかも、わざわざ海外にまで行ってるんだぜ。
で、
取材メモに何て書けばいいのか。それより鳥居にどう言い訳すればいいのか。
となるのだが、「なぜこういう思考になるのか」という話である。この言葉の裏を取ったり、この人物について調べることも、情報元を再度当たると言ったこともない。
そのまま帰国するのだからすごい話である。
筆力・・・なのか?
「筆力がある」という言葉がある。
たまに、この本のように「長い文章を書く作家」に対して使われることもあるが、ワタクシはそりゃあ意味が違うだろうと思ってしまう。
ワタクシは、最低限のことしか書いていない「台本みたいな小説」はいかがなものかと思うが、この本に関してはその最低限の部分、「伝えるべき情報」が余計な文章で埋もれてしまっているように思う。
要は、「誰が何のために何をした」がはっきりしていないのに、余計な装飾だけを頑張ってしまった・・・そんな印象を受ける。
おそらく、もともとの設定や構成自体に問題があるのではないかと思う。
次回につづく
塩田武士「罪の声」を読んだ
塩田武士「罪の声」を読んだ。
先に言っておこう。この本は、大変にプッシュされている1冊だ。だが、ワタクシ的にはどうにもいただけない1冊だった。
力の入れどころがズレた作品
ワタクシが読み始めて感じたのは「何だ、この読みづらい文章は・・・」ということだった。
しばらく読んでいくと、その原因がなんとなく分かってきた。この作家、力の入れどころがとにかくまずいのだ。
どうでもいい部分をやたらと書く割に、肝心の部分(その項目で伝えたい部分)がちっとも【描】かれていない。
おまけに、そのどうでもいい部分に、やたら凝った比喩表現を使ったり、それがまたズレていたりするものだから、余計にバランスが悪い。
これは学芸会なのか・・・?
文字数はそれなりに多いものの、この作品、「書き込まれているか」といえば、決してそうではない。
登場人物が「学芸会レベルのキャラクター設定」なのだ。まあ、こうした傾向はこの作品に限らないが、それにしても稚拙だ。
「癖のあるデスクのイメージを出す→スルメをかませておけばそう見えるんじゃね?」ということを平気でする。
これがさらっと流されるのならまだいい。だが、この作者は「スルメですよ、スルメ、この人はスルメをかみながら仕事をする人ですよー」というアピールが大変にしつこい。
スルメをかませれば、癖のある事件担当デスクの出来上がりだ
このセンスはどうなのか
「罪の声」は、昭和の未解決事件「グリコ森永事件」がモチーフになっている。実際のものと名前を置きかえているのだが、これはワタクシだけだろうか、このセンスはねえだろうと思ってしまった。
「ギン萬事件(ぎんまんじけん)」って、ほかになかったのかよ!という感じである。
次回につづく
「ルポ ニッポン絶望工場」を読んだ
「ルポ ニッポン絶望工場」を読んだ。これは強烈な1冊だ。
ルポ ニッポン絶望工場
この本は前書きからして衝撃である。
実習生と聞けば、日本に技術を学びに来ている外国人のように思われるかもしれない。だが、実際は短期の出稼ぎ労働者である。留学生にも、勉強よりも出稼ぎを目的にする者が多く含まれる
さらには
「実習生」や「留学生」だと称して外国人を日本へ誘い込む。そして都合よく利用し、さまざまな手段で食い物にする
とつづく。
ここには「日本語学校」も絡んでいるという。詳しくは本書を読んでもらえばわかるが、おそろしいほどに闇は深い。
「面」を知る
こうしたルポ本に対して「そんなの一部分だけ」という人もいるだろう。特にワンテーマで書かれた本は、一方に肩入れしすぎたり、大げさになりがちなものも少なくない。
だが、ワタクシはそうした「面」を知ることも大切だと思う。
本に限らず、メディアには必ずなんらかの「意思」や「意図」が入っている。
本でいえば、本を読むということは「その作者の考えを知る」ということだ。それをきっかけ考える、自分の考えを作っていくことがワタクシは大切だと思っている。
興味のある人はぜひ読んでほしい1冊だ。
このエイリアンはひどい・・・
さんざん引っ張っておいて「でてきたのがこれかよ!」という映画に「AVN/エイリアンVSニンジャ」というものがある。
「みよ!これが日本のB級映画だ!」というスタンスで、世界戦略をねらってつくられた映画である。チープなつくりながら、面白い映画なのだが・・・。
このエイリアンはひどい・・・
このTrailerを見ると、エイリアンはかなり強烈そうにみえる。
だが、実際に出てくるエイリアンはけっこう小さかった。
ALien Vs Ninja Amazing Movie Trailer 2012 by MrDJyetz
これはこれで面白いのだが、いくらなんでもこれはないだろ!とずっこけてしまった。しかも、最初に出てきた時のほうが、明らかに攻撃のバリエーションも多いし、強いよ!
ちなみに、全編に漂うチープさはこのレーベルの特長である。
トータルでは面白いので、興味のある人はぜひみてほしい。
みよ、これが日本のB級映画だ!
「AVN/エイリアンVSニンジャ」はずっこけてしまう部分があるが、同じレーベルから出ている「極道兵器」はチープながらも、すさまじい勢いがある。
このぶっ飛び感は、今の日本映画ではもう出せないだろう。チープ感はあるものの、カメラワークや構図のつくりかたをみると、「日本映画の文法そのもの」という感じなのも面白いところだ。
過程をどう見せるか エスター話のつづき
昨日のエスター話のつづきである。
ワタクシは、何かが起こる前の「過程の描き方がうまい」作品が大好きである。
この「過程」の部分がしっかりしていると、そのあと起こることに、よりインパクトが出る。
モーテル
先日紹介した「モーテル」は、この演出が抜群だった。
この映画、あとから振り返ってみると、実は最後までたいしたことが起こっていないのだが、かなり怖い。
「何かが起こるまでの過程」の見せ方が抜群なのだ。ほぼそれだけで成り立っている映画といってもいいかもしれない。
ストーリー的には王道なので、興味のある人は、ぜひその「過程」に注目してたのしんでほしい。「なぜ怖いのだろう」と考えながらみると、よりたのしめると思う。
エスター
さて、エスターである。全編に漂う「不気味な空気」、ワタクシはこれこそがこの作品の真骨頂だと思っている。これだけの雰囲気を醸し出せる作品はなかなかない。
ラストに関しては、賛否があると思う。ワタクシも初見では「これは・・・」と思ってしまったクチだ。
誤解のないように行っておくと、ラストも間違いなく面白い。だが、もう何歩か手前で終わらせてもよかったのかなあと思ったのだ。
ラストの難しさ
「ソウ」シリーズ「死霊館」などで有名なジェームズ・ワン監督がいる。
彼の作品は、ラストの見せ方が特長的だ。
パシャッ、パシャッ、パシャッ、それまでの伏線をフラッシュバックさせて、瞬時に話をまとめてしまう。そして、あとは観客の想像にまかせる。
非常にインパクトがある見せ方でワタクシも大好きな演出だが、この手法も何度かやると「またかよ」みたいに思われることがある。
引っ張るのか、余韻を残すのかは本当に難しいところだ。